福祉用具営業の新規開拓——「案件があったら連絡しますね」が、来ない理由
新しく居宅ができたと聞いて、菓子折りを持って挨拶に行く。名刺を渡して、パンフレットを置いて、「何かあればぜひ」と頭を下げて帰る。ケアマネさんも「はい、案件があったら連絡しますね」と、笑顔で受け取ってくれる。
——それきり、一度も電話は鳴りませんでした。
新規開拓を始めた頃、これを何度もやりました。感じよく挨拶して、名刺を配って、連絡を待つ。でも、待っても来ない。順番に書きます。新規開拓は「名刺を配ること」ではなく、「ケアマネが利用者に説明できるメリットを、渡せる状態にしておくこと」だ、という話です。
「案件があったら連絡します」は、来ない
先に、身も蓋もないことを言います。渡した名刺は、ケアマネさんの携帯には登録されません。悪気があるわけではなく、単に、いま必要がないからです。
ケアマネが福祉用具の業者を選ぶとき、いちばん見ているのはスピードです。ある調査では、選定理由の1位が「スピード(約25%)」で、「知識」はむしろ下のほう(約17%)でした。ところが、新規のあなたには、その「早さ」を見せた場面が、まだ一度もありません。実績ゼロ。すでに付き合いのある業者がいる限り、わざわざ試す理由がないのです。
しかもケアマネは、担当の家を月1回きちんと回っていて、頭の中はもう手一杯です。そこに新しい業者の名刺が1枚増えても、埋もれます。「案件があったら」の一言は、断り文句というより、その場をおさめる自然な相づちに近い。だから、来ない。
効くのは「知識」より、「渡せるメリット」
ここが、新規開拓のいちばんの肝だと思っています。
「福祉用具のこと、詳しいです。なんでも聞いてください」——これだけでは、いまの業者から切り替える理由になりません。ケアマネにとって切り替えは手間ですし、「なぜこの業者を紹介したのか」を利用者にどう説明するか、という宿題も残ります。詳しいだけの人は、その宿題を肩代わりしてくれない。
効くのは、ケアマネが利用者に説明できる"得"を持っていくことです。たとえば「いまこれが必要なら、うちを通すと、この自費ベッドがこの値段で入れられます」。これならケアマネは、利用者に「安く出せる人がいますよ」と言える。切り替えの理由が、ケアマネの頭の中ではなく、利用者への説明として立つわけです。
自由価格の商材で、その"安心"や"得"をどう作るかは別記事に書きました。ここで言いたいのは、新規の入口は知識のアピールではなく、「相手がそのまま使えるメリット」だ、ということです。
「今すぐ出せる」も、立派なメリット
もう一つの"渡せるもの"が、速さそのものです。
車に、ベッド・手すり・シャワーチェアを積んでおく。そして「今日どうしても必要なら、今すぐ持っていけますよ」と言える状態を作っておく。ケアマネからすれば、他社に連絡して段取りを組む手間が、まるごと消える。この手軽さが、選定基準1位の「スピード」の正体です。
ただ、正直に言うと、初回の挨拶でその場受注、というのは基本ありません。即納体制は「いざという時に、真っ先に指名される」ための備えであって、挨拶した日に効くものではない。切り替えが実際に起きるのは、もっと具体的な場面です。それは「競合が入っている居宅にどう食い込むか」として、このシリーズの別記事で書きます。
だから、順番がある
ここまでを踏まえると、新規開拓には順番があります。このシリーズは、それを1本ずつに分けて書いていきます。
- 誰に行くか(リストの精度)。昔は、ケアマネ伝手に「あそこに居宅あるよ」と聞くか、その都度ネットで調べるしかありませんでした。まず"面"を押さえる話。
- 顔を繋ぐ場を、先に作る。地域で勉強会を開いたり、研修の講師をやったりして先に顔を繋いでおくと、後から挨拶に行きやすい。実際、ケアマネ向けの勉強会に2日で100人超が集まった事例もあります。
- "白紙"を狙う。新設の居宅は、たいてい既に付き合いのある業者がいて、意外と入りにくい。むしろ、既存の居宅に入ってきた新人ケアマネのほうが真っ白で、差をつけやすい。
- 飛び込みは、是か非か。営業の視点ではアリ、ケアマネの視点では正直めんどう。使いどころがあります。
- 一度断られた先の再訪。「もう来ないで」とはめったに言われません。常套句の「案件があったら」から、どう関係を戻すか。
それぞれの中身は、シリーズの各記事に譲ります。
おわりに
新規開拓は、飛び込んで名刺を配ることではありません。ケアマネが利用者に説明できるメリット——安さでも、速さでも——を、渡せる状態にしておくこと。そこで一件が生まれれば、あとは「報告でケアマネの目と耳になる」という、既存の付き合いと同じ流れに乗っていけます。
入口はメリット、定着は報告。名刺が携帯に登録されるのは、たぶん、その後です。